毎月5日は、タマゴの日なんだそうだ。
タマゴの業界団体が販売促進のために設けたもので、
特に11月5日はいい卵の日とか。
ゆで卵の殻を剥くたびに、遠い昔を思い出すことがある。
小学校の頃、3年か4年の頃だった。
遠足で高尾山に行った。
弁当の時間になり地面にシートを敷いて、
班ごとに手作りの弁当を広げ始めた。
定番のゆで卵は全員が持ってきている。
山田君は殻を剥くのに手間取っていた。
殻に身が付いてきれいに剥けないのだ。
それを見ていた子が
「山田君のおかーさん、ゆで卵をゆでた後に、
冷たい水につけるの知らないんじゃない。
だからきれいに剥けないんだよ」
山田君が悲しそうな、悔しそうな顔をしたのを
僕は黙って見ていた。
きっと、山田君はおかーさんのことバカにされて、
悔しかったんだろうな。
僕だっておかーさんの事バカにされたら
悔しいに決まってる。
なにか言ってあげればよかったのかなと思いながら、
帰りの山田君の様子を見ていた。
結局何も言わなかった。
家に帰ったら、おかーさんに
「なんで茹でた後に、水に入れてくれなかったんだよ」
とか言ったのかな。
写真を、プリンターのおまけで付いてきたPainterで、印象画風に加工してみました。
それから程なくして、山田君は転校していった。
病気で長い間入院していたおかーさんが亡くなったので、
おとーさんの田舎に帰ったと聞いた。
「山田君、なんにも言ってなかったね。」
と誰かが言った。
みんな、黙っていた。
それ以後、山田君のことを話す人は誰もいなかった。
もう、半世紀も前の出来事だけど、忘れてしまいたい山田君の思い出だ。